現代の移民の特徴−ヨーロッパの現状に学ぶ(前編)

2007年12月1日、財団法人 大和市国際化協会(神奈川県)が主催した国際理解講座において、中山暁雄IOM駐日代表が講演を行いました。
その際の記録を、同協会のご厚意で機関誌「Pal」より転載しています。(一部IOM駐日事務所による修正あり)

現代の移民の特徴−ヨーロッパの現状に学ぶ

国際移住機関(IOM)
駐日代表 中山暁雄


国際機関と名のつく機関はたくさんあり、国連もその一つですが、IOMは移住の問題を専門に取り扱っている機関です。日本ではあまり知られていませんが、本部はジュネーブで1951年から活動しています。日本に事務所を構えて活動するようになったきっかけとしては、インドシナ難民の定住支援がありました。
大和市は約3%が外国人住民ということですが、全国平均が約1.6%ですから、かなり多くの外国人の方がいらっしゃいます。日本でも外国人が集まって住んでいる集住都市が増えて、確実に移民の問題が出てきています。数年先をいくヨーロッパの現状と取り組みを参考にして、今後どのようにこの課題に答えていくのかということを考えてみたいと思います。

移民とは?

フィリピン
2006年のレバノン危機を逃れ、IOMの支援で母国に戻った女性移民労働者 © IOM 2006 - MPH0101 (Photo: Angelo Jacinto)

「移民」という言葉を考えるときに、現時点では、国際的に合意された定義というものがまだありません。国連統計委員会に1997年に提出された国連事務総長報告書による「通常の居住地以外の国に移動し少なくとも12ヵ月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」という定義には、国籍に関する要件が一切含まれていませんので、移民と外国人は同じ概念にはない、ということになります。この定義によると、日本で生まれた外国籍の人は、通常の居住国は日本になって、その人達は移民ではない、ということです。人の移動というのは、多様な、複雑な、奥の深い、裾野の広い話なのですが、一つの見方としては、自発的な移住と、非自発的な移住とがあると考えられます。

非自発的な移住というのは、自分の意思に反して強制的に移動を余儀なくされる場合で戦争、人権侵害、自然災害などによって起こる難民、あるいは避難民、また人身取引の被害者がこれに入ってきます。通常、国際的な人道支援と呼ばれるのは、この非自発的なカタゴリーに入る人達が対象になります。この自発的な移住と非自発的な移住との境目にはそれほど明確な境界線があるというわけではありません。研修生や留学生の中にも明らかに搾取を受けたりする場合もありますし、自分の意思で労働目的で来ても、その後紛争に巻き込まれてしまったというケースなど、自発的な移住から非自発的な移住に転落してしまったというケースは常にあります。

人の移動はなぜ起こるのか

人は必ず、何かを実現したい、何かを達成したいという意志を持って移動します。それを達成するための支援というものも同時に考えていく必要があります。「グローバル化」ということが盛んに言われています。確かに物や金が移動するときにはかなり自由化が進んでいますが、人が移動するときには、国家から強い規制を受けており、一般に思われているほど加速しているわけではありません。先進国の間ではビザなしの渡航が可能になってきましたが、それも短期滞在に限られており、日本人がアメリカで就労したいといった場合でも、かなり厳しい条件があります。

フィリピン、インドネシア、スリランカは3大移民送出国ですが、このような国々の移民の6割から7割が女性です。そのほとんどが家庭内労働や興行といった条件があまりよくない仕事をしているため、人身取引などの被害にあいやすい状況です。男性と女性の移民の割合は約半々で、この比率そのものは昔からそれほど変化していませんが、80年以降、労働者として働く独立した女性が増えてきました。人が移動する背景には、送り出し国と、受入国のそれぞれの要因があって、治安や収入の違い、少子高齢化による労働力不足、魅力的なライフスタイルであったりします。

特にヨーロッパの場合、旧植民地から旧宗主国への移動というのがあります。北アフリカからフランスへ移住する、あるいは、パキスタン、インド、スリランカからイギリスに移住するといったケースです。言葉のメリットと文化的な結びつき、旧宗主国側からの旧植民地側への一種の優遇策で留学生の受入などに対する援助等の要因があります。

大和市でもインドシナ難民の人達がたくさん定住されているということですが、やはり難民あるいは移民の人達は、ある程度集まって、固まって住むほうが、お互いに相互扶助がしやすいので、どうしても集住化現象がおきます。また、そういう移民のネットワークができると、さらにそれを頼って人が集まってくるという現象がおきます。第2世代、第3世代になってくると分散が始まってきますが、都市部においては集まって住む現象が起きます。

プラス面とマイナス面

移民からの送金は送出国にとって大きな収入源
© IOM 2007

人の移動は必ずプラス面とマイナス面があって、この2つをどのようにバランスをとっていくか、プラス面を大きくして、マイナス面を減らすためにはどういった対策が必要なのかを考えなくてはなりません。

フィリピンやスリランカなどはなぜ多くの移民を送り出しているのか。送り出す側にとっては、移民がもたらす送金が非常に大きな収入源になっているということから大きなメリットであり、海外へ送り出すことによって、失業率を低く抑えることができます。

また、マイナス面としては、医師、看護師といった国内でも必要な人材が海外へ流出してしまうことです。そして一旦移民の仕送りに依存する経済の仕組みが出来てしまうと、なかなかそこから抜け出せなくなってしまいます。

受入国としてのメリットは、労働力の確保、多様な人材を確保できるということがあります。大学に行って話をすると、大抵活発に質問をするのは留学生で、貝のように口を閉ざしているのは日本人学生ということが多く、活発な留学生がその後日本の民間企業で働いて日本の社会を活性化するということのプラス面は大きいといえます。

しかし同時に国内労働者との競合、また治安の問題もありますし、日本の国・社会としてのアイデンティティーをどのように保持していくかという問題も出てきます。移民の側にしても、よい収入を得られたり、新たな可能性を開拓したりといったプラス面がある一方、家族と離れ離れになってしまったり、人権侵害、搾取、差別にあったりといったマイナス面もあります。

移民と社会の関係

私たちが注目しているのが「どのようにして移民と社会の関係を作っていくのか」ということです。現在まで3つのモデルがあるといわれています。

一つは「同化」。一方的に受入国の文化や言葉や習慣に適合するというもので、現在「同化政策」を進めている国はなく、もうすでに過去のものとなっています。

次に「分離」ですが、一時滞在で、1、2年働いたら帰るので社会との接点は持たなくていい、というモデルで中東ではかなり使われています。

最後は「多文化主義」。これは、文化的な多様性に力点が置かれていて、カナダやオーストラリアといった国がこれにあたります。

そして近年ヨーロッパで取り入れられた政策の中に「社会統合」というのがあります。多文化主義に近いものですが、違う点は、社会的な一体性を重視している、という点です。なぜヨーロッパでこの「社会統合モデル」が強調されていったのでしょう。ヨーロッパはもともと、歴史的な、また文化的な伝統が長い国が多いので、文化的なアイデンティティーを強く持っています。イタリアならイタリア人、ドイツならドイツ人という意識が強い。ここで新たに移民が入ってきて、国のアイデンティティーはどうなるのかと危機感を覚える人が多い。逆にカナダのように移民で成り立っている国は、多文化主義にそれほど抵抗がない。そしてもう一つは9.11、同時多発テロの影響があります。イスラム原理主義やテロ対策が非常に重要になってきて、社会としての一体制というか、ある種の管理が必要になってきました。

この「社会統合」をする上での条件としては、やはり、言葉が非常に重要だと言われています。どうやって日本に定住する人達の日本語を支援するのか、という問題に対して、まだまだ取り組みが遅れていると言われています。言語の習得、十分な収入、平等な機会、差別の排除、適正な在留資格、医療、教育といった公共サービス、地域社会から孤立しない、地域社会に参加をしていく、ということが重要であると言われています。こういった社会統合を実施するためには、中央政府、地方自治体、地域社会、雇用者、市民社会団体が広く連携していくことが求められています。

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